


アオao輪島塗の木地屋発、
「絶対に気持ちいい素材」を
新潟・糸魚川で生まれた、
大人のガーゼ服
日本海をのぞむ自然豊かな新潟県糸魚川市で、高級婦人服などのOEM縫製工場として信頼と技術を重ねる「美装いがらし」が立ち上げたファクトリーブランド「ao」。ガーゼ本来の風合いを活かした、洗いざらしの心地よさを大切に、大人の日常に似合うガーゼ服をお届けします。
誰もが知るガーゼを、大人が楽しむおしゃれな服に
きっと誰もが、その心地よさを肌で覚えている。
生まれたての赤ちゃんを包む産着、汗や口元をやさしくぬぐうハンカチ、傷を手当てする布、マスク、近年ではケットとしても。
やわらかくて、通気性がいい生地として、私たちの身近にあるガーゼ。
ただ、身近な存在ではあるものの、ガーゼと聞いてすぐに思い浮かぶのは、やはり赤ちゃんや医療のためのやさしい布のイメージ。
もしくは、リラックスウェアや肌の弱い人のための服を想像する人もいるかもしれません。
そんな印象を大きく変えてくれるのが、素朴なだけでも、繊細なだけでもない、おしゃれを楽しむためのガーゼ服を作り続けるファクトリーブランド「ao」です。

フォッサマグナとヒスイの町として知られる新潟県糸魚川の縫製工場を訪ねると、見えてきたのは、思った以上に奥深いガーゼの持つポテンシャル。
「ao」が大切にしている、「洗いざらしのよさを感じるガーゼ服」とは。その根っこにある企業理念、すべての人に届けたい「心地よさ」とは。
ものづくりの現場で、代表の五十嵐さん、生産管理の川原さん、商品企画の西川さんにそれぞれお話を聞きました。

「絶対に気持ちいい素材なのに、ガーゼの洋服ってないよね」
「ao」が生まれたのは、2005年。
工学部出身という経歴を持つ五十嵐さんが、家業である「美装いがらし」に戻り、自社ファクトリーブランドの立ち上げに挑戦したことから始まります。

糸魚川の縫製工場が、ガーゼに特化した自社ブランドを始める。今でこそ「ao」はガーゼ服のブランドとして知られていますが、当時としてはかなり異端な選択でした。
きっかけのひとつは、数年ぶりに再会した大学の後輩で、のちに「ao」を共同で立ち上げることになる久保さん(現在は退職)との会話。
自社ブランドの構想を話した時、編集者をしていた久保さんが口にしたのが、「ガーゼってさ、赤ちゃんのときにまず着る、誰もが着たことがある素材だよね。でも、絶対に気持ちいい素材なのに、ガーゼの洋服ってないよね」という言葉。
当時、大人向けのガーゼ服はほとんど存在しなかったと言います。
データを見ると、ガーゼの出荷量は少しずつ伸びていた。「縫うのが難しい」と敬遠される素材ではあったものの、自社がこれまで積み重ねてきた技術や仕入れの経験を活かせる。難しい素材を扱う、それを支える技術力を強みにできる。そう考え、動き始めました。

とはいえ、知り合いをはじめ周囲の反応は芳しくありません。「上下で着たら修行服みたいなもの、誰が着るの?と、社内こそ総スカンでしたね」と、五十嵐さんは当時を笑って振り返ります。
川原さんも、「その時は、まだ10代だったので、赤ちゃんっていうイメージは全くなくて。傷口に当てるあのガーゼ?なんか貼られちゃうの?と、ピンとこなかったですね」と、当時のガーゼへの印象を正直に語ってくれました。

それでも五十嵐さんが面白いと思ったのは、誰もが知っている「気持ちいい素材」なのに、大人の服として仕立てる選択肢がほとんどなかったことです。ましてや、ひとつの素材に特化したブランドそのものも珍しかったのだと言います。
そんな空白の領域へ、「ao」の歩みが始まりました。
扱いづらくてもゆずれない、生ガーゼへのこだわり
「ao」のものづくりを語るうえで欠かせないのが、「洗いざらしのよさ」です。
一般的なガーゼ生地は、扱いやすくするために、油落としや糊づけ、樹脂加工など、さまざまな加工が施されます。
けれど「ao」では、ガーゼ本来の風合いを活かすため、余計な加工をせずそのままの生地「生機(きばた)」を使います。

*JIS規格のホルマリン(ホルムアルデヒト)残留値が乳幼児基準値 16μg/g以下=ほぼ検出されない
最後の仕上げにも、aoならではのこだわりがあります。
一般的な衣服では、製品をきれいに整えるために、仕上げの段階でプレス加工をすることがあります。一方、aoではあえてプレスをせず、最後にもう一度、ざぶざぶと洗って仕上げます。
「加工した硬さって、洗ってもとれないんですよね」と、五十嵐さん。
加工しないと聞くと、工程を減らした分、シンプルなようにも思えますが、実際はその逆。生機のままのガーゼは非常に縫いにくく、そして大きく縮みます。20%前後、ものによっては縦横ともに35%~40%も縮むことがあるというから驚きです。しかも綿を中心とした天然素材は、糸の状態や巻き取り方によって、ロットごとに縮み方が変わります。
そこで重要になるのが、データの蓄積とフィードバック。
裁断前、縫製後、染色後など、工程ごとの縮率データを積み上げ、次の製造にフィードバックする。同じ商品でも、ロットごとに変わる縮率をもとに、CAD(設計ツール)上でパターンをつくり直します。


縮む分をあらかじめ見込んでいるため、裁断時の着丈などはかなり長くなっています。しかも縫う部分、縫わない部分でも縮み方が違うため、単純に一定の割合を入力すればいいわけでもありません。
「それをコントロールするのが、データです」。
データを蓄積しながら、毎回調整する。手作業だけでは到底できない細かな管理のもと、洗いざらしの風合いを支えています。
データといえば、2010年に信州大学との共同研究で、ガーゼの肌ざわりや着心地を数値化。結果、ストレスを下げる効果が確認され、「ao」の服作りにも応用しているという、理系の五十嵐さんらしいエピソードも。
そうかと思えば、裁断前に、芯に巻かれて届いた生地を広げ、かかっていたテンションをほどく「放反(ほうたん)」という作業の話では、「2日くらい、リラックスさせてあげるんです」と。ガーゼにも落ち着く時間が必要なのだと、まるで人間のことのように話す五十嵐さんの言葉が印象に残りました。

作り手に負担がかかりすぎると、着る人の心地よさも損ねてしまう
CADでパターンを起こし、裁断する、そこから先は、縫製スタッフの手作業です。
ものづくりを支えるのは、新人から30年近く勤めるベテランの職人まで、総勢65人のスタッフ。地元を中心に、他府県から移住してきた人もいます。
最近ではファッション系の学校で学んだ若手も多く、即戦力として現場での経験を重ねているのだそうです。長く培ってきた縫製の技術と新しい感覚。ワンフロアに集い、お互いを補いあいながら、それぞれの経験を活かしてガーゼと向き合い、心地よさをそこなわずに仕上げる技術を磨き続けています。

加工を省いたガーゼはただでさえ繊細で縫いづらいものですが、折り返しや重なりが加わって厚みが増すと、さらに難易度が上がり、ベテランでも手を焼くことがあるのだとか。
そんな時は、縫製スタッフから「ここはちょっと」と、川原さんに相談が入ることもあります。ですが、単純に縫いやすさだけを理由に仕様を変えるのではなく、「まず厚みが出て縫いにくいということは、お客さまが手にしたときに、そこが違和感につながってしまうんじゃないか、肌あたりが良くないんじゃないかと考えます」。自分たちの手間を減らすためではなく、着る人にとってどうなのか。縫製の現場と話し合いながら、企画スタッフにフィードバックして仕様を調整していきます。
川原さん自身、ミシンでの縫製やCAD操作など、洋服作りのさまざまな工程を経験してきました。だからこそ、現場の難しさもわかる。企画側の意図を汲みながら、工場との間を調整できるのもこうした経験があるからです。
さらに定番の生地であっても、デザインによって重なり方や縫い方が変われば同じようにはいきません。
「何回も洗って、長く着ていただきたいので、無理して縫ったり、何度もミシンが同じところを通ったりすると、それだけ生地に負荷がかかるんじゃないか」。
生地への負担、縫製する人の負担、そして着る人が肌で感じること。それぞれを考えながら、できること、できないことをすり合わせていきます。
その背景にあるのが、すぐに相談できる距離の近さ。これもまた、ファクトリーブランドならではの強みです。

作る人、売る人、着る人の声をものづくりに反映
新商品においては、まず試作の第一段階で、新潟だけでなく大阪や北海道からも社員が本社に集合。実際にフィッティングをして、見た目や着心地はもちろん、生地の無駄がないか、縫いやすいかまでチェックし合うのだそうです。企画する人、縫う人、売る人、着る人、それぞれの視点から確認します。
お客さまの声も、販売スタッフから企画や工場のスタッフへと伝わります。
月に一度、「ao」では、企画スタッフと工場スタッフがミーティングを行い、実際の声を仕様にどう落とし込むかなどの話し合いの場がもたれます。その積み重ねは、長く作られてきた定番アイテムにも反映されています。
定番として20年たっても好まれている商品があり、若い方もご年配の方も、いろいろな世代で着ていただいている。一方で、お客さまの声を受けて、よりよくなっていった商品もあります。定番だから何も変わらないのではなく、お客さまの声で少しずつ変わってきた。長く愛され続けるためにも、必要なアップデートを重ねています。

生地が先にあって、そこからデザインが生まれる
ひとくちにガーゼと言っても、種類はさまざま。「ao」では、地元新潟をはじめ、愛知、和歌山、兵庫、岡山、愛媛など、各地の作り手とともに、オリジナルガーゼの開発にも取り組んできました。



これだけ多様なガーゼから服をデザインするのが、ディレクターの西川さん。北海道を拠点に、商品企画からディレクション、撮影のハンドリングやシーズンビジュアルまでを手がけています。

ブランドコンセプトである、「洗いざらしのよさを感じるガーゼ服」。服そのものだけでなく、写真や言葉にもやわらかな空気感や風通しのよさを感じてもらえるように考えるのも仕事なのだそう。
商品を企画するにあたっては、ガーゼのやわらかさや心地よさを大切にしながらも、必ずしもリラックスしたデザインに落とし込むわけではありません。時にははっきりとした色合いを使ったり、さまざまなデザインに挑戦しています。
「ガーゼ服と聞くと、なんとなく素朴でちょっと繊細、弱々しい。そんなイメージがおしゃれの範囲を狭めている」と、西川さんは常々感じているからだと言います。
「おしゃれを楽しんでいたら、その服がとても心地よかった。そんな服でありたい」とも。その考え方は、商品企画の順番にも表れていました。
「素材の魅力を一番にうたいたいので、基本は生地を先に選び、この生地でどんな服を作ろうかと考えます」と、西川さん。
デザインが先にあって、それに合う生地を選ぶのではなく、まず生地が先にある。ふれて、見て、このガーゼならどんな服にすると気持ちいいのかを考える。

春夏は、風が通ると気持ちいいガーゼで、ふわっと風が通り抜けるようなシルエットにしたり、肌を直射日光から守れる、薄く羽衣のようなガーゼを選んだり。秋冬は、太い番手の糸で織ったガーゼ。それを重ねることで空気を含んで暖かさが増したり、さらに重ね着を想定したデザインで、保温性がぐっと高まるよう意識したり。
「ガーゼだから、こうする」のではなく、「このガーゼだから、こうしたい」。
そうやって、100種類近いガーゼから、一着一着の服が生まれています
「ao」の服じゃないと、着ないと言われるまでに
素朴すぎず、個性的すぎず、でも、ちゃんとおしゃれで心地いい。
工場勤務のため、お客さまの声を直接聞く機会は多くないという川原さんですが、販売スタッフを通じて「『ao』の服じゃないと私、着ないのよ」と、言ってくれるお客さまがいると聞いています。
西川さんも同じような実感を語ります。「肌ざわりがすごくいいから、もうこれじゃなきゃイヤだと、ずっとリピートしてくださる方の印象が強くて」。
以前、代官山にお店があった頃、くたくたに着古した「ao」のパジャマを持ってきた高齢の男性がいたそうです。亡くなった奥さまが愛用していたもので、遺品として大切にしたいから直してほしいとの依頼。
修繕は簡単ではありませんでしたが、それでもスタッフが手で繕い、形を整えてお渡ししました。
「そんなに着てくださる方がいるなんて!」と感動し、長く着ていただけるものを作らなくてはと、改めて身の引き締まる出来事だったと西川さんは振り返ります。
買ったときの心地よさだけではなく、何度も洗って、何年も大切に着る。
その時間まで考えながら服を作る。
毎年、新しいデザインが生まれ、気に入った服が翌年にはもう手に入らない、そんなめまぐるしく変わるアパレル業界にあって、お気に入りが定番として、変わらずそこにあり続ける。「ao」には、そんな安心感があります。
関わるものすべてを心地よく
いま、国内生産の衣類は全体のわずか1.1% * にまで落ち込んでいます。
*日本繊維輸入組合の「日本のアパレル市場と輸入品概況2026年版」より
手仕事で仕上げるタックを取る技術も、担い手が減っているもののひとつ。「ao」の定番人気商品、タックブラウスは、いまも手取りでタックを取っているそうですが、「こういった日本のものづくりの技術もなくなってきている」と、五十嵐さんは危惧しています。
家業に戻りOEMを中心に仕事をしていた五十嵐さんが自社ブランドを立ち上げ、経営について考えるようになった背景には、実は、社員が疲弊し、辞めていく経験があったからだと言います。
ある異業種の経営者から「お前、経営者をやめて、早く社員を解放してあげろ」と言われたことが、大きな転機になったのだと五十嵐さん。

海外生産が増え、より安く、より多くつくることが求められ、売れ残ればセールになり、それでも売れなければ廃棄される。そんな業界の仕組みへの違和感も感じていました。
これまでのやり方を変えなければ、会社は続かない。そこから、自分たちで決定権を持ち、試し、改良できるファクトリーブランド「ao」を立ち上げることへとつながっていきます。
だから、生産量も無理はしない。
新商品の初回生産は、1ヵ月から1ヵ月半ほどで売り切れる量を目安にし、売れ行きを確認しながら、必要なものだけを追加する。
定番でも、前年に100枚売れたからといって、今年もそうとは限らない。最初から大量に作らないことで、余った服を廃棄しない仕組みを作っているのだと言います。
「今のところ、廃棄は1枚も出していません」と、五十嵐さん。
もちろん手探り状態だった最初のころは、何十枚という単位でたくさんダメにしたこともあります。「忘年会でみんな、同じブラウスやカーディガンを着ていたこともありましたね」と、川原さんは笑って教えてくれました。
そんな光景もなんだか、「ao」らしく感じられます。
服の着心地を考えるとき、素材だけを見ていても答えは出ません。ガーゼを織る人がいて、企画する人がいて、縫う人がいて、売る人がいる。その先に着る人がいる。そのどこかひとつにでも無理がかかれば、それは、服のどこかに表れてくる。
取材の最後、五十嵐さんが語った言葉が、この日聞いたすべてをつないでくれました。
「本当の心地よさって、みんなが長くこの場でやっていけること。そのためには厳しい過程があるけれど、そこはブレずに進めていきたい。それが、私が思う心地よさですし、すべての判断基準になっています」。
生地そのものをリラックスさせる工程、縫う人に無理をさせない縫製、働くスタッフが長く続けられる仕組み、取引先や地域との関係。ガーゼのことを考えていくと、いつの間にか、その服に関わる人たちのところまで話が広がっていきます。

そんな「心地よさ」は、環境への思いにもつながっています。
「ao」では、2015年に農薬や化学肥料を使わない綿花の栽培をスタート。地域へも呼びかけながら、綿を使った授業や衣類について話す活動も行っている。食べものを通して食の大切さを伝える「食育」があるなら、これは「服育」。
収穫した綿と他の有機栽培綿で紡いだガーゼの産着を、糸魚川で生まれた赤ちゃんへ贈るという取り組みも始めました。
地元で育った綿の服を、生まれたばかりの子どもが身にまとう。その経験もまた、ものづくりを知るきっかけになればと話します。
赤ちゃんの産着、傷を手当てする布、マスク――
そんなイメージしかなかったガーゼが、糸魚川の工場では、大人が日常の一着として選ぶ服になっている。
誰もが知っているのに、実は知らなかったガーゼのもうひとつの顔を、「ao」は20年かけて教えてくれました。

- 作り手情報
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ao 企業名:株式会社アオ
所在地:新潟県糸魚川市
創業:昭和22年(1947年)
公式HP:
https://bisou-igarashi.com/brand
ブランドHP:
https://www.ao-daikanyama.com
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